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2014年10月19日 (日)

The Beatles Mono LP Boxの付録本からわかること その1

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The Beatles Mono LP Boxは、僕も結局、輸入盤を予約して買ったのですが、巷の評判どおり、今回は素晴らしい内容になっていると思います。今回の盤は、クリアで繊細な音になっているのが特徴的で、例えばPenny Laneのピッコロ・トランペットの音がものすごく、美しく感じたり、Rocky Raccoonで、ポールがギターの低音弦を弾く音がものすごくリアルに感じたりと、今まで感じたことのない新鮮な感動を味わうことができました。ただ、クリアで繊細な音が悪い方に作用してしまうところもあるようで、例えば、Eight Days a Weekの歌いだしのところなどは、シンバルでリズムを刻む音が、悪目立ちしてしまって、ボーカルの勢いが削がれてしまっている感じがして、これはちょっと違うんじゃないかと思ってしまいました。なので、元気な勢いのある曲が多い初期の盤については、苦言を呈している人がいることは、なんとなく納得できます。ただ、これだけ質の高い盤なので、再生システムを工夫すれば、イマイチと思ったものについて、よく聞こえるようになる可能性もあると思います。そういう意味で、このMono LP Boxはビートルズファンならば一生楽しめる商品だと思います。ちょっと高くても、普通に買えるうちに買っておいた方がよいと思います。

ところで、このMono LP Boxには、ハードカバー本がついていて、Stereo LP Boxに比べると、ページ数、写真ともに少ないのですが、そのかわり、当時の資料の写真が満載になっています。例えば、Stereo LP Boxでは、With The Beatlesの片面のマスターテープの箱の写真しかなかったのが、今回は全部のマスターテープの写真が掲載されています。そして、一部の盤には、下の写真のような「TRANSFER SHEET」という、レコードをカッティングしたときの資料が掲載されているのですが、ここにはものすごく重要な内容が書かれています。

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上はWith The Beatlesのものですが、曲ごとにどんなセッティングでカッティングしたかの情報が書かれているようなのですが、残念ながら僕にはここに書かれていることの意味はわからないものの、専門家が見たらどういうことが書かれているかわかると思うので、ぜひとも解明してもらいたいものです。他のアルバムでは、「FLAT」と書かれているものが多いものの、With The Beatlesは、全部の曲に細かい設定が書かれていて、ここから、カッティングに苦労したんじゃないかといことが想像されます。

それから、このアルバムは、マトリックスが短期間に1から7まで進んだことが知られていますが、この資料により、各カッティングが行われた日が判明しました。

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時系列にまとめると

1963年10月23日 マトリクス1N
1963年11月14日 マトリクス2N
1963年11月21日 マトリクス3N
1963年11月21日 マトリクス4N
1963年11月22日 マトリクス5N
1963年11月22日 マトリクス6N
1963年11月26日 マトリクス7N
1981年10月27日 マトリクス8

「ビートルズ・レコーディングセッション」によると、With The Beatlesは1963年11月22日に発売されて、予約だけで30万枚を突破したとあるので、 マトリクス2Nはレコード盤を増版するためにラッカー盤が必要になったため作ったと推測できるのですが、マトリクス2Nはボツになって、一切市場に出回っていないのに、マトリクス3Nを作るまでに1週間も間が空いているのが、謎です。また、3Nから7Nまで、かなりの短期間で作っているのが、僕としては意外でした。このことから、増版の要請に応えるために何度も、ラッカー盤を作ったのではなく、何らかの問題あるいは不満点があったので、何度もラッカー盤を作成したのではないかと考えられます。なので、僕は以前、With The BeatlesのUK盤は1Nより7Nの方がよいではという記事を書きましたが、このことから、やはり、With The BeatlesのUK盤オリジナル・モノの完成形は7Nであると、考えるのが、自然なのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

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上記は、A Hard Day's NightのTransfer Sheetですが、ここでは、FLATと書かれています。これは、With The Beatlesで何度もカッティングした成果がバランス・エンジニアにフィードバックされて、マスターテープを作成する段階で、カッティングしやすい設定が意識されるようになったのではないかと想像してしまうのですが、どうでしょうか。そう考えると、以降、マトリクスのバリエーションがあまりないことの説明がつきます。

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ただ、A Hard Day's Night も1N、2Nがボツになり、3Nが完成版になります。2N、3Nは1964年6月25日に作られたことがわかります。1Nを作成した日が、写真では切れていてわからないのですが、「ビートルスレコーディングセッション」によると、6月22日までミキシング作業が行われたということなので、1Nの作業も6月25日に行われた可能性が高いと思います。

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Beatles For Sale については、完成形となる3N、4Nがどちらも、1964年11月3日にカッティングされたことがわかります。3N、4Nともに、音の傾向に違いがないということが一般的に言われていますが、これは、そのことを裏付ける資料だと思います。同日に同様のセッティングでカッティングされたから、ほぼ一緒ということは理にかなっていて、こうなると、3N、4Nどちらが先に工場で使われたかも怪しいので、4Nがセカンドプレスとは言えないのではないかと思います。なので、もし4Nで盤質のよいものが、中古レコード屋で安く売られていたら、狙い目なのではないかと思います。

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Help! については、1965年6月25日にマトリクス1の作ったもののボツになり、6月28日に完成形のマトリクス2を作ったことがわかります。

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Rubber Soul については、Transfer Sheetの写真が切れていてよくわからない(見られたくない情報があるのか?)のですが、マスターテープの箱に記載されている情報から、各マトリクスが作成された日付がわかります。

1965年11月17日 マトリクス1
1965年11月18日 マトリクス2
1965年11月19日 マトリクス3
1965年11月23日 マトリクス4
1966年1月28日 マトリクス5

ビートルズレコーディングセッションによると、「ディスクカッターのハリーモスは11月17日にカッティングしたがEMIのプレス工場からクレームがついたため、19日に作り直した。このラッカー盤がただちに工場へ送られ、ジャケットの印刷も至急行われた結果、ビートルズのニューLPは12月3日に発売の運びになった」ということが書かれていますが、マトリクス2,3はボツになっているので、この情報はやや正確ではないことがわかります。マトリクス4が完成形になるので、工場からのクレームに対応するのに、6日かかったことになります。12月3日の発売日に間に合わせる行動としては、やや時間がかかっているので、工場からのクレームはあまり激しいものではなく、「とりあえず、これ(マト1)で作るから、なるべく早く次をよろしく」といった程度なのではないかと思います。そう考えると、ラウドカットといわれる、マトリクス1を、意外と多く見かけるのも納得できます。また、マトリクス3以降は、ハリーモスさんじゃない人がカッティングしているのも、興味深いです。ハリーモスさんは、クレームにヘソを曲げてしまったのでしょうか。

こういった感じで、MONO LP BOXの付録本から興味深い情報を得ることができます。また、今回ビートルズレコーディングセッションを読み返してみて、この本はマスターテープを作るまでの作業が詳細に書かれていて、レコード盤をカッティングする際の情報はあまり書かれていないことがわかりました。その意味でも、MONO LP BOXの付録本から読み取れる情報は興味深いものだと感じます。

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